この度、反転授業研究会において「問学教育研究部」を設置するに至りました。「問学」という馴染みのない言葉を用いたのは、この言葉を基軸に据えて、教育の質を高めていく志を示すためです。「問学」とは、その字の如く、「問うこと」と「学ぶこと」を合わせた言葉であり、「問い学ぶ」姿勢と行動を意味します。
19世紀や20世紀の日本において、「問うこと」はそれほど重要視されず、「学ぶこと」に重点が置かれてきました。これにより必要な情報・知識を効率よく獲得し、いち早く欧米諸国に追いつくことが出来ました。情報技術革命が進む21世紀では、情報へのアクセスの障壁は格段に低くなっています。その結果、かえって情報過多が生じ、重要な情報を取り逃す状況が起こっています。
今日のような情報が溢れる時代には、情報の波に流されるのではなく、自らが主体的に情報を取捨選択する態度が望まれます。その時の「ものさし」になるのが「問い」です。適切な「問い」により、正しい情報へのアクセスが可能になるだけでなく、情報を分析し、すでにある知識や他の情報と統合することによって、問題解消にたどり着くことや新たな知を創造することも可能になります。
急激に世界情勢が変化する21世紀は「問い」がいっそう重要な役割を担うと推測されます。教育界においても「問い」の重要性は変わりません。「問い」により「学び」が促進されるからです。つまり、智を獲得する「学び」は、さらなる智を求める「問い」によって拍車がかかるからです。今回、「問い」に基づく「学び」の態度を表現するために、「学問」の文字を逆にした「問学」を用いることにしました。
「問学」は新しい言葉のように思われるかもしれません。しかし、実は、儒教の聖典とされる四書の『中庸』(第27章)に、「君子は徳性を尊んで、問学に道(よ)る」(君子尊徳性而道問学)とあります。随分前からこの言葉は存在していました。しかし、『中庸』が書かれた時代は、「問学」は君子たる者のみに求められたものでしたが、今日ではすべての人に求められるものです。
以上の問題意識から、「問学」をキーワードとし、その「問学教育」のあり方の研究と実践をする部門を反転授業研究会内に設置することに致しました。探究型学習や発問に重点を置く授業はすでに実践されていますが、それらを「問学」に収斂することによって、改めて体系づけることが可能になると考えています。各教科だけでなく教科横断型の授業においても、「問学」を根付かせることができれば、どれもが実りある実践に繋がることが期待されます。今後は「問学」に関心ある方々と交流を持ちながら、反転授業とともに「問学教育」の研究と実践に努める所存です。どうぞ宜しくお願い致します。
問学教育研究部 部長 中西洋介
<参考文献>
中西洋介(2017).「反転授業:アクティブ・ラーニング実現は「問い学ぶ」教育に道(よ)る」
大学英語教育学会(JACET)関西紀要 第19号 p.21-39