新学習指導要領の方向性を示す報告書を読んでいると、児童・生徒・教員に対する「資質・能力」という表現が頻繁に目にします。ある時期、私はこの表現に出会う度に、それは何を意味するのかを考え込んでしまいました。「資質・能力」から感じるイメージが、何か固定的なものであるように感じるからです。「資質」にしても「能力」にしても、それらは人が生まれ持つものであるように思ってしまいます。
それでは、固定的なものではく動的なものとして「資質・能力」を捉え直すとすると、「スキル」の考えが役に立つます。前回までの「スキル論」の中で、「能力」を英語の ‘skills’ に言い換えることが可能であることを述べました。今回の「資質・能力」を述べる場合、「能力」は「スキル」以外に「知識」が含まれるとし、「知識・スキル」の言い換えであるとします。それでは、「資質とは何か?」となりますが、私はそれが「態度」のことであると捉えています。この捉え方は、英語の ‘competency’ が何を指すのかを調べることにより、そのように考えるようになりました。
実は、‘Competency’ 「コンピテンシー」の定義は多様です。しかし、その代表だと思われるものに「知識・スキル・態度」を示すというものがあります。インターネット上に挙げられている画像でそれを表すものが多々見受けられます(上の画像参照:ネット上から引用)。OCED(協力経済開発機構)が2030年向けての教育を「知識・スキル・人格」に(メタ認知の言い換えである)「メタ学習」を加えたものを「コンピテンシー」 ‘competencies’ (画像参照)としています。ここでは、「人格」は「態度」にも言い換えが可能です。一昨年(2015年)に教育界で注目された「非認知能力(スキル)」(non-cognitive skills)は、経済学の用語です。心理学的には「性格特性」(personality traits)、そして一般的には「人格」(character)を指します。(Paul Tough著 How children succeed (p.xv)より)
さらに、文部科学省の英語版ホームページでは「生きる力」を ‘zest for life’ または ‘competency’ と言い表しています。(2017年8月13日のブログ「スキル論(その3 )」より)
このように、「コンピテンシー」(あるいは「コンピテンス」 competence)を「知識・スキル・態度」と認識し(下の画像:ネット上から引用)、さらに、「知識・スキル」を「能力」そして、「態度」を「資質」と見なすと、
「コンピテンシー」=「知識・スキル・態度」=「資質・能力」
となります。各人が基本的に同じことを指しているとすれば、各人が用いる表現についての誤解や認識のズレが生じることが少なくなると思われます。
上記以外の定義づけも可能ですが、「資質・能力」あるいは「コンピテンシー」という表現を使用する際には、それらの定義を明確にしてから議論を進める方が良いと思います。それにより、互いの誤解を避け、建設的な議論に発展させる出発点となるからです。
(参考文献)
Charles Fadel, Maya Bialik, and Bernie Trilling (2015). Four-dimentional education: The competencies learners need to succeed Center for Curriculum Redesign.
Paul Tough (2012). How Children Succeed: Grit, Curiosity, and the hidden power of character. Mariner