対話的な学び(その2)-対話 dialogue-

 英語版の文部科学省のホームページでは、「対話的な学び」を interactive learning と表記していますが、私はそのままの直訳で dialogic learning も可能であると考えています。なぜなら、dialogue「対話」の概念が大きく寄与すると思うからです。今回は、学びに対する dialogue 「対話」に関しての二つの考えを紹介します

 

 一つは、「学びの共同体」を進めている、教育学者である佐藤学氏が提唱する「学びの3位一体論」です。それは、「対象との対話」「他者との対話」「自分自身との対話」から成り立つ学びを指します。(「佐藤学教授へのインタビュー」より www.p.u-tokyo.ac.jp/lab/ichikawa/johoka/2005/group4/manabus1.htm)

 

 私が教員対象の講演やセミナーをする際に、冒頭に間違い探しの画像を用いて、この「三位一体論」を少し体験して頂く場合があります。参加者は、まず初めに、二枚のイラストを見て、異なる箇所を個人で考えます。その次に、近くの参加者と答えを教え合う時間をとります。最後に、正解を述べた後「これらの活動から何を得たのか?」を個人で考えて頂きます。これらの活動から、最初が「対象との対話」(今回は間違い探しの画像です)、二番目が「他者との対話」(答えを教え合うことにより、協働により正解をより多く知ったり、確認したりする)、そして最後が、「自己との対話」(今回は振り返りになります)を一通り体験したことを理解して頂きます。これらの活動が、果たして佐藤氏が述べている「学びの三位一体」になっているかどうかは分かりませんが、このような活動を通して参加者は「対話的な学び」を理解する手がかりを得るのではないかと思っています。

 

 ウォーミングアップを兼ねてのこの活動の後に、講演やセミナーの本題(反転授業など)について述べるのですが、その前に、もう一つの「対話」についてのポイントを話します。それは、対話には、4つの行動があり、それらは、①聞く(listening) ②大事にする(respecting) ③保留する(suspending) ④出す(voicing)ことである、と述べ、私の話をこの4点、特に、②と③を大切にして聞いて下さいとお願いして本題に入ります。

 

 実は、この4点は、前野隆司氏と保井俊之氏の対談による著書『無意識と対話する方法』から知ったことで、以下がその箇所の部分です。

 

アイザックスはこれまでの対話のありかたを変え、新しいダイアローグの場をもたらすために必要な4つの行動を構造化して提示しました。それが聞く(listening)、大事にする(respecting)、保留する(suspending)、出す(voicing)です。これを実践すると、振る舞いが変わり、そして直感的に気づき、これまで見えなかったことが「なるほど」と納得できるようになるというんです。」(p.33)

 

 今回紹介しました、「学びの三位一体をなす、対象との対話、他者との対話、自己との対話」と「対話に必要な行動である、聞く、大事する、保留する、出す」は「対話的な学ぶ」を行う上で非常に役立つものであると考えています。

 

 次回は、対話の4つの行動を提唱したアイザックス(William Isaacs)の著書 dialogue and the art of thinking together から、問学と対話について述べることにします。


(参考文献)

前野隆司、保井俊之(2017)『無意識と対話する方法ーあなたと世界の難問を解決に導く「ダイアローグ」のすごい力』ワニ・プラス