Society 5.0 と問学

 テレビで映画を見ていると、頻繁にコマーシャルが入ります。普段は気を留めていないのですが、年始の映画の途中に入るコマーシャルに私の目を引くものがありました。それは、政府広報として放送されたもので、Society 5.0 と呼ぶ近未来社会を描いていたものです。ある朝、スマートフォンに呼びかけで目覚めた女子高校生が、ドローンから顔認証を受けて登校に履く靴を受け取り(ドローン宅配)、AIスピーカーに話しかけて店に昼食の注文をして(AI家電)、登校途中に店でそれをもらいスマートフォンで会計を済ませ(クラウド会計)、気になる男子高校生とともに運転手のいない自動走行バスで学校に向かう風景が写し出されています。これらの行動の途中で、祖母がネットを通じて遠隔診断を受けている場面や無人トラクターが畑仕事をしている場面(スマート農業)が出てきます。

 

 政府内閣府のホームページ(http://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html)によると、 Society 5.0 をサイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)であると説明しています。このような近未来社会は、AI(人工知能)/IoT(もののインターネット化)が牽引する社会のことを指します。政府が 5.0 の社会と呼ぶ理由は、1.0 を狩猟社会、2.0 を農耕社会、3.0を工業社会、4.0を情報社会と位置づけ、それに続く新たな社会としています。

 

 同ホームページからの説明を引用します。

「これまでの情報社会(Society 4.0)では知識や情報が共有されず、分野横断的な連携が不十分であるという問題がありました。人が行う能力に限界があるため、あふれる情報から必要な情報を見つけて分析する作業が負担であったり、年齢や障害などによる労働や行動範囲に制約がありました。また、少子高齢化や地方の過疎化などの課題に対して様々な制約があり、十分に対応することが困難でした。」

 

 「Society 5.0で実現する社会は、IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、これらの課題や困難を克服します。また、人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服されます。社会の変革(イノベーション)を通じて、これまでの閉塞感を打破し、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合あえる社会、一人一人が快適で活躍できる社会となります。」

 

 すごく明るい近未来社会が描かれています。紹介したコマーシャルの最後にも女子高校生が、微笑みながら「未来が楽しみでしょ。」と言って終わっています。少し考えれば分かることですが、これまでの社会(1.0~4.0)での考え方や振る舞い方は、それぞれで異なります。5.0での社会でもそれが当てはまります。今までの考え方や振る舞い方でけでは明るい未来を望むのは難しいと思われます。

 

 現在の考え方や振る舞い方に大きな影響を与えている学校教育は、3.0の社会において始まりました。Society 5.0 における教育を考える際、それに相応しい教育内容や教育方法が求められます。その教育方法や学習方法を表すものが「問学」です。なぜなら、学ぶことに長けているAIと共存するには、人間は問うことに長けていることが必要であるからです。人間が、新しい社会とは何であるかを問い、その社会で生きる人間とは何かを問い、それらの問いから得た智恵を持ってAIと暮らすことで初めて、明るく楽しい未来が到来するものと考えます。