前回のブログで紹介した著書 'How to read a book' から
「テレビやラジオ、そして日常生活で我々を取り巻くあらゆる種類の娯楽や情報は、人工的な見せかけである。それらに接していると、外部からの刺激に反応することを求められるので、我々の頭(脳)は活動的であるような印象を持ってしまう。だが、それらの外部刺激が持つ力は限定されている。それらは、例えれば、麻薬である。我々はそれらに慣れてしまい、絶えず、より多くを求めてるようなる。それらはなんら(良い)影響を及ぼすものでない。そのような状態で、かつ、我々自身の中に(頭・脳のための)源泉を持つことがなければ、知的、道徳的、そして精神的な成長が止まる。そして、それらの成長が止まると、死が始まる。」(拙訳)を紹介しました。
40年以上前に書かれた文章ですが、これは、スマートフォンの利用が爆発的に拡張する現代社会において、極めて卓見だと言わざるを得ません。近年、fMRI(functional Maginet ic Resonance Imaging)装置の利用により脳科学の研究が進み、脳のどの部分が何に反応するのかを知ることができます。人が思考し行動するのに重要な機能を果たす箇所は、前頭前野(prefrontal cortex)での実行機能(executive function)であると言われています(https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%AE%9F%E8%A1%8C%E6%A9%9F%E8%83%BD)。
先月発売された『スマホが学力を破壊する』(川島隆太著)によると、「スマホ使用に関する最悪の仮説」を説明する文章に、「ゲーム、テレビ、スマホの共通点は、前頭前野に抑制がかかることです。…前頭前野に抑制がかかるゲームとテレビに関しては、健康な児童・生徒の脳発達の経年変化をMRI計測により観察した結果、どちらも長時間プレイ・視聴すると、脳発達、特に前頭前野の発達に遅延が生じることが明らかになっています。そうした研究の蓄積があるからこそ、それらの結果に基づいてスマホ使用に関しても、前頭前野の発達に悪影響を及ぼしているに違いないと思っています。」(pp.182-183)
幼児に我慢するとマシュマロを多く上げると告げ、我慢する様子を調べ、10数年後の経年観察した結果、我慢した幼児は相対的に我慢できなかった幼児に比べ総じて、学力が優秀であるなどの成功を収めていることを明らかにした「マシュマロ実験」(mashmallow test)あります。我慢するには、すぐ手に入る喜び(instant gratification)の誘惑に負けず、後の喜び(delayed gratification)を得るための自制心(self-cntrol)が必要である。自制心は、脳機能で言えば、上記の「実行機能」(exectutive function)であるとのことです。("The marshmallow test" p. 107)
以上から、自制心を持って、思考し行動することによって、より良い人生を送る可能性が高くなります。自制心や思考・判断は、前頭前野の発達、特に、「実行機能」の発達と多いに関係があります。テレビ、ゲーム、そしたスマホは、それらの発達を阻害する一方で、読書はmind(頭・脳)を鍛えることができる。
このように要約できるのではないかと思います。
川島氏の著書では、'Use it, or lose it.'という言葉が紹介されています。それは、私が脳科学に関する洋書を読んでいるとよく見かける言葉でもあります。it(それ)は脳であると置き換えて考えます。「脳(機能)を使うのか、それとも、脳(機能)を失うのか、そのどちちらかである」という意味です。脳が機能し続けるには、脳を使い続ける必要があります。脳を使うことを止めてしまえば、その機能が止まります。冒頭の引用では、成長が止まり、死が始まる、ということになります。
読書は、'Use it.' になり、テレビ、ゲーム、スマホは、'Lose it.' になります。
(参考文献)
川島隆太(2018) 『スマホが学力を破壊する』集英社新書
Walter Mischel(2014) The Marshmallow Test: Mastering Self-Control Little Brown.