'Reinventing Capitalism in the age of Big Data'から-attention の向け先ー

 最近読んだ洋書 'Reinventing Capitalism in the Age of Big Data' は、タイトル通りビッグ・データ(Big Data)の時代において資本主義(capitalism)が再構築されていくことを述べた本です。この本は、経済活動に焦点を当てていますが、現在起こっているAI/Iotが拡大する状況は、社会的に言えば、Society 5.0 の時代であり、産業的に言えば、Industry 4.0 の時代になります。それぞれの側面において、Big Data の活用は欠かせません。今回は、その本の私の理解した部分を紹介し、私の意見を書くことにします。

 

 著者の一人は、オックスフォード大学教授を務め、前書の 'Big Data' は、ベストセラーになりました。今回の著書では、Big Data が活躍する時代において、資本主義は変容を遂げようとしていると述べています。その変容の特徴は、企業(firm)や価格(price)から「豊富なデータの市場(data-rich markets)」へ重点が移行し(p.10)、「財政」から「データ資本主義」(data capitalism)の経済に移行(p.12)している、と指摘しています。

 

 企業が提示する価格が、商品・サービスを判断する基準であったものが、豊富なデータから生まれる情報にその価値が取って代わろうとしています。機械学習(machine learning)で進化するAIを用いて、豊富なデータを解析(algorithms)することで、今までに出来なかった、商品・サービスと消費者とのマッチング(matching)が可能になるからです(p.84, p.126など)。その一例は、宿泊施設をウエッブサイトで斡旋する企業で有名な Airbnb(p.70) です。

 

 企業の在り方も変容が求めれます(p.111)。AIの活用により、事業の効率化が図られるだけでなく、中央集権的で固定的な階層(hierarchy)組織から、柔軟で階層的でない(less hierarchy)組織への変容です(p.110)。豊富なデータから生み出される情報の流れにより、消費者は自分の合った商品やサービスを購入する時代において、硬直した組織のトップダウンによる企業の動きでは、「データ資本主義」の時代で、強力なネットワークを持ってプラットフォームを築き、素早いフィードバックで持って対応する、Google, Apple, Facebookなどのスーパースター企業(superstar firms)に太刀打ちできなくなります。

 

 AIを用いてBig Dataを活用することにより、今までの職が数多く無くなると予想されます(p.184)。定職が持てなくなる危険性や危惧・不安を解消する方法の一つに、ベーシックインカム(Universal Basic Income)の導入があります(p.189)。その導入が実行されるかどうかは、これからの議論に委ねられますが、この議論の際には、「仕事とは何か?」という職業の意義が問われることは避けられないでしょう。ただ生活を営むだけであれば、ベーシックインカムで事足りますが、人間はそれだけで生きるのはありません。生きがいであるとか、人間の魂(human soul)に与える無形の利益(intangible benefits)が必要です。それは、職業に意味を与えるものでもあります(p.206)。

 

 言い換えれば、Big Data の時代は、人間性が問われる時代でもあります。人に力を与える(empower)もに、「何を選ぶかを選択する能力」(the ability to choose what to choose)(p.219)があります。選択には責任が伴います(p.220)。将来を予想する(predict the future)よりも、将来を作る(shape the future)準備をするべき(p.217)でありますが、それは、何を選択するかに掛かっています。その選択や判断に役立つのがデータです。しかし、データが豊富であっても、洞察力(insight)が乏しいことがあります(p.154)、その場合には、選択や判断を見誤ります。Big Data やAIによる情報によって様々なマッチングが可能になる未来は、社会的にも人間的にも深いものなるでしょう(p.223)。

 

 以上、簡単に私が理解した部分をまとめて紹介しました。私がこの本で読んだ思ったことは、Big Dataを活用して、商品・サービスあるいは職業にマッチングさせると、それが利用者にとって「最適化」となり効率の良いものとなるかもしれませんが、何か Big Data、AI、algorithm、によって操作されるような気分になりました。そこで、操作されるか、操作するか、の分かれ目が、選択や判断する対象が自分にとってどのような意味があるか、ではないかと思います。この著書にも触れられていますが、人には「認知的な偏見や制限」(cognitive bias / cognitive contraints)(p.62)に縛られ、判断を誤ることがあります。Big Data から導き出される結論は、それらの偏見や制限を乗り越えることに役立ちます。しかし、その結論に従うのは、自分自身の価値や意味あるものに対しては優先順位が低いものすべきだと思います。

 

 自分が価値や意味があるもの対しては、Big Data の結論を参考しながらも、決して鵜呑みにするのではなく、自分の頭(mind)と心(heart)と魂(soul)を使って判断を下すべきだと考えます。その判断をもたらすのは「問学」ですが、その際に、欠かせないのが、注意力(attention)です。それも、「焦点を当てた、継続した、注意力」(focused, sustained attention)です。プラグマティズムを提唱した哲学者 Willam James は、「注意力のコントロールする力が、判断力、人格、意志の源である。」(The faculty of voluntarily bringing back a wandering attention over and over again is the very root of judgment, character, and will.) と語っています(p.5: Mindful Learning)。


(参考文献)

Victor Mayer-Schonberger & Thomas Ramge(2018).  Reinventing Captitalism in the Age of Big Data. Basic Book

Craig Hassed & Richard Chambers(2015). Mindful Learning: Mindfulness-based techniques for educators and parents to help students.  Shambhala