先週完読した本 Political Emotions で、以前から気になっていたのですが、何度も出くわしたので紹介します。その単語は、cultivate と cultivation です。前回のブログの引用にもこれらの単語が使われていました。以下が前回の引用です。
`At any level, however, from the primary grades to the university, the teacher is not merely an instructor but a potential personal model for his (or her) pupils and a living clue to the attitudes that prevail in the adult world. From teachers children derive much of the sense of the way in which the mind is cultivated; from observing how their teachers are esteemed and rewarded they quickly sense how society looks upon the teacher's role.' (p.310)
「しかし、小学校から大学までのいかなる段階でも、教師は指導者であるばかりではなく、児童・生徒・学生にとって、潜在的には人としての模範ともなり、大人の世界で優勢となる態度の生きた手がかりでもある。教師から、子どもは、知性を養う方法をくみ取り、教師がいかに尊敬され報いられているかを観察することで、子どもは、社会が教師の役割をどのように見ているかを、すばやく感じ取る。」(拙訳)
`In countries where the intellectual functions of education are highly valued, like France, Germany, and the Scandinavian countries, the teacher, especially the secondary-school teacher, is likely to be an importanat local figure representing a personal and vocational ideal worthy of emulation. There it seems worth becoming a teacher because what the teacher does is worth doing and is handsomely recognized. The intellectually alert and cultivated teacher may have a particular importance for intelligent chidlren whose home environment is not highly cultivated; such children have no alternative source of mental stimulation.` (p.310)
「教育の知性的機能が高く評価されている国々、例えば、フランス、ドイツ、スカンジナビア半島諸国では、教師というのは、特に中・高校の教師は、それぞれの地域において、個人的にも職業的にも模倣する価値がある理想像を体現している人物であろう。そこでは、教師になる価値があるとされるようである。その理由は、教師の行動には価値があり、手厚く認められているからである。知性において鋭敏で磨きがかかった教師というのは、家庭環境がそれほど洗練されてはいないが、知能が高い子供にとっては、特に重要であるかもれない。そのような子供は、教師に代わる知的な刺激となるものを持たないからである。」(拙訳)
それでは、Political Emotions からの引用です。
①
`Greate democratic leaders, in many times and places, have understood the importance of cultivating appropriate emotions' (p.3)
「偉大な民主主義の主導者達は、多くの時代や場所で、適切な感情を培う重要性を理解してきた」(拙訳)
②
`The song's aim to cultivate the spirit that could sustain this new Indian nationalism - a spirit of love, inclusiveness, fairness, and human self-cultivation.' (p.13)
「その歌の狙いは、この新しいインドのナショナリズムを維持可能な精神ー愛、包括、公平、人間修養の精神ーを養うことである。」(拙訳)
③
`I support the contention of both Tagore and Mill that the public cultivation of emotion needs to be scrutinized by a vigorously critical public culture`(p.19)
「私は Tagore と Mill の次の主張を支持する。その主張とは、一般に広く感情を洗練させることについては、大衆の活発な批判文化により綿密に吟味する必要があるといものである。」(拙訳)
④
`it gives a central place to the cultivation of emotions that are required to make fraternity more than a nice word.` (p.29)
「それにより、同胞愛という言葉をより良くするのに必要な感情を洗練させることに対して中心的な位置を占めるようになる。」(拙訳)
⑤
`The general goal of the new religion will be to extend human sympathy by cultivating the spirit of universal brotherhood.' (p.61)
「新しい宗教の一般的な目標は、普遍的な人類愛の精神を養うことによって人間の共感力を拡張することである。」(拙訳)
⑥
`Becoming virtuous is a matter of cultivating appropriate habits, in emotion as in conduct.' (p.65)
「高潔になるというのは、行動と同様に感情においても、適切な習慣を養うことである。」(拙訳)
⑦
'He admires not only the Positivist account of nature and history, but also the general proposal for social cultivation of extended sympathy`(p.69)
「彼(訳者注:彼= John Stuart Mill)は自然と歴史についての実証哲学的な説明だけでなく共感力の拡張を社会的に育成するという提案にも感心している。」(拙訳)
⑧
`.... cultivation of sympathy...` (p.75)
`... cultivation of sympathy...' (p.80)
'... cultivation of sympathy...' (p.89)
「...共感力の育成...」(拙訳)(⑦と同じような表現だったのでフレーズだけ抜粋しました)
`... by cultivating sympathy ...` (p.80)
「…共感力を育成することによって」
⑨
`Mill accordingly recommends both the study of logic and the study of Plato's dialogues, on the ground that they cultivate the ability to question all things.` (p.78)
「ミルは従って論理の研究とプラトンの対話の研究の両者を勧めている。その理由はそれらの研究はすべての物事を問う能力を養うからである。」(拙訳)
⑩
`.... cultivation of the ability...` (p.79)
「…能力の育成...」(拙訳)(⑨と同じような表現だったのでフレーズだけ抜粋しました)
⑪
` Religion consists in the endeavor of men to cultivate and express those qualities which are inherent in the nature of Man the eternal, and to have faith in them.` (p.88)
「宗教は、人間の永遠性に内在する性質を培い表現し、それらを信仰する努力を人がなすことにある。」(拙訳)
⑫
`Tagore urges the reader to culitvate a critical spirit.' (p.92)
「Tagore は読者に批判精神を培うことを勧めている。」(拙訳)
⑬
`its core idea is to seek liberation from selfishness by the cultivation of an overflowing types of love' (p.92)
「その核となる考えは、溢れんばかりの色々な種類の愛を培うことで、利己心から自由を求めることである。」(拙訳)
⑭
`in search of power over others, he cultivated emotions based on tradition, homogenety, and submissiveness.` (p.94)
「他人を支配する力を求めて、彼は伝統、同質性、従属性に基づく感情を育んだ。」(拙訳)
⑮
`.... cultivation of a wide range of deep emotions ...` (p.97)
「…広範囲の深い感情を育むこと」(拙訳)
⑯
`... Tagore cultivated emotions through poetry, music, and dance, ...` (p.98)
「… Tagore は詩、音楽、ダンスを通して感情を育んだ。」(拙訳)
⑰
`... cultivate dissent without losing shared concern?` (p.107)
「共通の関心を失わずに意見の相違を育むのか?」(拙訳)
⑱
`... how a concern for nature may be cultivated.` (p.121)
「いかの自然に対する関心を育むのかを...」(拙訳)
⑲
`... it seems unreasonable to suggest that we protect people's sensibilities by cultivating ignorance in public realm.' (p.140)
「…我々は公共の場で無視することを養うことで人々の繊細な感受性を守るように提案することは不当であるように思われる」(拙訳)
⑳
`... Fortane cultivates in his reader, from the start, a Rollo-like disposition; ...` (p.141)
「… Fortane は最初から読者の心の中にロローのような気質を育てている…」(拙訳)
以上、400ページを超える本の前半に満たない部分でも頻繁に cultivate/ cultivation の単語が出てきます。後半部分でも多くのページにそれらの単語が出てきます。
cultivate は、生徒が最初に覚える意味は「耕す」です。農業と関連する言葉です。「土地を耕す」のイメージから、ハート(heart)の部分の「感情を耕す」`cutivate emotions` になったかもしれません。いずれにせよ、cutivate emotions は、‘culitvate the heart ` (ハートを育む)という表現と密接に関係します。感情にたいする「知性・精神」(mind) についても `cultivate the mind` の表現が冒頭の引用にあります。
すなわち、英語では「こころ」は mind(知性:頭を指す部分)と heart(ハート:胸をさす部分)になります。日本語の「マインド」は英語のheartを示すことが多いですが、mind は頭の部分で「思考」を指します。heart と mind を育む動詞として挙げられるのが、cultivate です。「土地を耕す」というイメージを拡張させて、「知性や感情を耕す」というイメージで捉えると cultivate the mind / cultivate the heart が何とか掴めるのではないかと思います。そのイメージと掴めることが出来れば、「cultivate する方法は何か?」と考えることによって、教え方や学び方に新しい視点を得ることができると思われます。
(参考文献)
Martha C. Nussbaum (2013) Political Emotions: Why love matters for justice Harvard University Press