スキル(Skills)論(その8)-スキルがスキルを生む-

 昨年(2017年)8月に「スキル(skills)論」として7回に渡り、「~力」を示すイメージをスキルに置き換えるとより具体的な能力として理解できるとし、スキルを中心に据えた私見を述べました。今回は久しぶりにスキルの関する視点を書きます。それは、「スキルがスキルを生む」という表現です。

 

 「スキルがスキルを生む」は、『最新脳科学でついに出た結論「本の読み方」で学力が決まる』(青春出版社)に出てきます。3年前くらいから日本でも注目されるようになりました「非認知能力(スキル)」について書かれている箇所にあります。「非認知能力(スキル)」は「社会情動的スキル」の言い換えです。これに対するものが、「認知的スキル」です。知能指数(IQ)、偏差値などの学力といった、相対的な能力を指します。「非認知(的)能力」、すなわち「社会情動的スキル」と「認知的スキル」の関係が書かれている箇所を以下に引用します。

 

「実は近年、「社会情動的スキル」、あるいは「非認知的能力」と呼ばれるものへの注目が高まっています。(中略)すなわち、忍耐力や自己抑制といった目標を達成することにかんするスキルや、社交性やおもいやりのような他者との協働に関するスキル、自尊心や楽観性といった感情のコントールに関するスキルといったものです。そして、重要なのは、これらの社会情動的スキルが認知的スキルの獲得を支え、それが新たな社会情動的なスキルの獲得を支え、また新たな認知的スキルが獲得され・・・というような、社会情動的スキルと認知的スキルが支え合って、子どもの発達相応のスキル獲得を支えていくと考えられるようになってきたことです。これが「スキルがスキルを生む」です。」(pp. 139 - 140)

 

 「スキルがスキルを生む」は、英語では Skills beget skills. と言います。「非認知能力(スキル)」の重要性を広めることに貢献した、ノーベル章受賞者であるジェームズ・ヘックマン(James J. Heckman)による著書  Giving kids a fair chance ( a strategy that works)   の中で見かけて、beget を用いた面白い表現だったので記億にありました。

 

 'My analysis is cast in a life cycle perspective. It considers the origin of the multiple skills that produce success or failure in many aspects of life. It analyzes the consequences of life cycle dynamics through which family investments and social environments produce cumulative advantages and disadvantages.  Skills beget skills.' (p. 125)

「私の分析はライフサイクル(生涯過程)の見方に対して一石を投じたものである。人生の多くの場面で成功や失敗を生みだすスキル、それも複数のスキルの源となすものを考察してきた。生涯に渡って、家庭による投資や社会環境が(不)利益を累積的に生み出す過程がどのような結果をもたらすのかを分析してきた。スキルがスキルを生むのである。」(拙訳)

 

 ヘックマンの本が「非認知能力(スキル)」(non-cognitive skills)に関してものであるので、引用の「スキルの源」(the origin of the multiple skills)が「非認知能力(スキル)」を指すものと推測されます。

 

 「非認知能力(スキル)」以外の能力(スキル)においても、「スキルがスキルを生む」は、スキルの連続性を考慮に入れた教育や指導の重要性を認識させてくれます。スキルは単体のものではなく、複数のスキルが関連して影響し、連続するものであるという認識です。らせん階段(スパイラル)的に上昇するようにイメージではないでしょうか?スキルを大切にし、その連続を意識しながら、能力(スキル)を育成していくという視点は、「スキル論」において欠かすことのできないものです。


(参考文献)

川島隆太監修 松崎泰、榊浩平著(2018) 『最新脳科学でついに出た結論「本の読み方」で学力は決まる』青春出版社

James J. Heckman(2013).  Giving kids a fair chance: a strategy that works  MIT Press