翻訳書がAI翻訳を上回る箇所― "The Rise and Fall of American Growth" より-

 前回のブログで、翻訳書がAI翻訳を上回る点として、「背景知識」や「論理」を考慮した日本語訳ができることを述べました。今回の洋書 The Rise and Fall of American Growth の箇所を紹介し、原文(英文)をどのように理解され、日本語訳ができているかを説明します。

 

"Throughout the late nineteenth and early twentieth centuries, immigrants bought an increasing variety of food. " (p. 70)

 

「19世紀末から20世紀初頭をとおして、移民によって食の文化が進んだ。」(『アメリカ経済 成長の終焉 上』p.121)

 

 原文は、bought になっていますが、この文の後に続く英文が  brought とあり、文脈からもこの文では  brought の方が相応しいと推測されます。

 

 Google 翻訳は、

『19世紀後半から20世紀初頭にかけて、移民はますます多様な食べ物を買いました。』となっています。訳として大丈夫ですが、AIは意味を理解しないので、文脈から元の文が間違っていると判断しないことが判ります。このような場合に間違ていると判断するのが、人間です。

 

 

 次に文法的に間違ていると思われる箇所を紹介します。

"the typical automobile of 2014 had much more common than its 1940-model ancestor than the 1940 vehicle had with the horse and buggy of 1870," (p.323)

 

「2014年の一般的な自動車と1940年のそれは、1940年の自動車と1870年の馬車よりも、はるかに共通点が多い。」(『アメリカ経済 成長の終焉 上』p.505)

 

 英文法的には、朱字の than ではなく with です。後に出てくる than 以下と比べている文と思われるので、上記の翻訳になっています。翻訳者が、文法的な間違いに気づき、訳したものと考えられます。

 

 Google 翻訳では、『2014年の典型的な自動車は、1970年の馬と1870年のバギーを持っていた1940年のモデルよりも1940年のモデルの先祖よりもはるかに一般的でした。』となっており、意味が不明です。この場合においても、元の英文を正しく理解する上で、人の介在は必要になります。


(参考文献)

Robert J. Gordon (2016).  The RIse And Fall of American Growth: the U.S. standard of living since the civil war  Princeton University Press

ロバート・J・ゴードン著 高遠裕子、山岡由美訳(2018)『アメリカ経済 成長の終焉』 日経BP社