今年のノーベル経済学賞受賞者について-拙著から-

 昨日、今年(2019年)のノーベル経済学賞受賞者が発表されました。マサチューセッツ工科大(MIT)教授のアビジット・バナジー氏、MIT教授のエステール・デュフロ氏、ハーバード大教授のマイケル・クレマー氏です。私は、MIT教授のバナジー氏とデュフロ氏の共著 Poor Economics (2011)を出版された年に読み、非常に内容が面白かったのを覚えています。特に、私が教育を行う上で参考になった研究を、拙著『反転授業が変える教育の未来』(2014年)で紹介しました。以下にその箇所(教師と生徒の関係性を構築することを述べた文章の一部)を示します。

 

「理想を言えば、関係を構築するには、教師と生徒がともに希望を持つことです。希望を持つことの大切さに関して次の研究があります。マサチューセッツ工科大学(MIT)のアビジット・V・バナジー教授とエスター・デュフロ教授による貧困の研究では、貧困国の人々が海外からの援助を得て自立をするように促してもうまくいかないことがあるそうです。自立のためのお金を与えても、刹那的に美味しい食べ物などに浪費していまい、中・長期的に自立するためのお金の使い方をしないので貧困から抜け出せない状態のままでいるというのです。理由として、将来に対する希望がないためであると教授らは指摘しています。

 状況は違っても根本のところで、共通点を見つけ出すことが出来ます。日本で、いくら素晴らしく立派なICT環境が整ったとしても、将来への希望を見いだせなければ、刹那的なICTの使い方しかしないでしょう。反転授業においても、教師と生徒がともに、動画の視聴や教室での活動に意味を見出し、それを継続することで未来への希望の光を見つけることができれば、自ずと関係もできるのではないかと思います。ICTや反転授業の活用の前には関係の構築がなされなければなりません。それは、共感などの感情を持つ人間にとっての大前提であるからです。」(p.36-p.37)

 

 Poor Economics から、いかに素晴らしい環境が整ったとしても、未来に対する希望がない場合、良い方向に進むことが困難になることを学びました。このことは、反転授業やICT教育を実践する上でも、同じことが言うことができると思い、拙著の中で上記の文章にしました。

 

 私の教育観に影響を与えてくれた著者たちが、今回のノーベル経済学賞の受賞者となったことを知って、大変嬉しく思います。これを機に、著者たちから学ぶ気持ちを新たにしました。


(参考文献)

Abguhit V. Banerajee & Esther Duflo (2011).  Poor Economics:a radical rethinking of the way to fight against poverty  Public Affairs

芝池宗克、中西洋介(2014) 『反転授業が変える教育の未来:生徒の主体性を引き出す授業への取り組み』明石書店